しさくろく

試作録、思索録、詩作録、…etc

親指シフト再考、薙刀式再考

今日は普段と違う配列を使って打鍵してみる。何配列かというと超久々の「薙刀式」。

薙刀式といえば、新下駄配列を習得する前に3ヶ月ほど練習して、一度は本格的に打鍵することができていた配列で、薙刀式から新下駄配列に移行したときの記事が未だに本ブログでトップに入るほどのアクセス数となっている。そこに書いたことについて何か問題があったわけではないのだけれど、なんだか薙刀式作者の大岡さんには申し訳ないことをしている気分で罪悪感はちょっとある。

ちなみにいつぶりに薙刀式を打つかといえば、今日で新下駄配列の練習を始めてから1076日なので、丸3年ぶりということになる。

なぜ親指シフト系を再考しているのか

1. ポメラの存在と神経の慣れ

なんで丸3年も経って今更また親指シフトを再考しようと思ったかといえば、元々ポメラが大好きで地味にDM100とDM200を使い続けていたことにある。

DM100以降には親指シフトNICOLA」が標準搭載されていて、ポメラを使うときだけ実はNICOLAで打ったりしていた。

そうしたら不思議なもので、何ヶ月も間を空けながらもたまに親指シフトを打っていると、自然とNICOLAでも違和感なく打鍵ができるようになってきた。

元々、親指シフト系がなぜ流暢に打てなかったかといえば、右手なら右手の親指を他の指と一緒に打鍵する、同手同時シフトという動きが自分はとても苦手だった。

それが、NICOLAを地味に継続していたことにより、気付くとそんなに違和感がないようになってきた。

何かを地味に継続するというのは、案外思いもよらないところで役に立つのだなということを、ポメラのおかげで学んだ気がする。

2. 異手同時シフトに感じる時間同期の難しさ

そしてメインで使っている新下駄配列についても、異手同時シフト(例えば、右手の中指シフトと左手を同時に打つこと)にだいぶ限界を感じてきた。

といっても、高速域だけの話であって、さほど高速に打たない場合は左右の歩調を合わせることにそんなに抵抗感はないのだけれど、例えてみればピアノで左右の手を同時に別のことをするのが難しいのと同様に、考えながら文章を書いている傍らで左手と右手のリズムを合わせることへの難しさを最近如実に感じるようになった。

これはひょっとすると、超高速域用の練習などを重ねれば、大した問題ではないのかもしれないけれど、今の自分にとってはだいぶ足枷となってしまっている。ただこれは親指シフトへの抵抗感同様、さらに数年かけて神経が適応するようになれば解決するかもしれないし、自分はそろそろ「最適化」打鍵に取り組む時期に来ているのかもしれない *1

3. NICOLAの指への負担、キーボード選びの難しさ

大きく分けて前の2つの進展と課題感により、以前にも増してNICOLAに再度興味を持つようになり、何日も高速打鍵を熱心に練習するようになったのだけれど、実はそこでも課題感を持った。

神経的にはあまり違和感がなくなった「同手同時シフト」であったが、筋肉的には結構疲労感があるようで、新下駄配列などに比べるとやはり疲れる。

ただ、Orzレイアウトなどの変種や、きちんと親指シフトNICOLA)に特化したキーボードを選択していれば、こうしたことは防げるようであるし、ポメラでは疲労感が少ないようにも思っていて、NICOLAがハードウェアを選り好みする配列であるということも実感する。

自分はいろんなパソコンやデバイスを仕事で扱うので、以前、新下駄配列を選定したときにはそれを最重視したので親指シフト系は自然と排除されていた。

しかしながら、今は自分は仕事ではQwertyしか使わないと決めている。自分が新下駄配列+Astarteを利用するのは、ブログ・執筆・思考整理だけであって、いくつかの限られた端末しか使わない。

つまり今は昔と前提条件がいろいろと変わっている(仕事では使わない+親指シフトへの抵抗感が減った)し、最悪の場合に新下駄配列やNICOLA、Astarte+にいつでも戻ることができるという安心感がある。前はQwertyしか打てなかったので、かな配列選定というのは自分にとって結構大切な課題だったのが、今は気分的にだいぶライトになった。

―― ということで、心機一転、再度改めて「薙刀式」 *2 を見つめ直してみようと決意したのだった。

薙刀式の魅力

では、3年ぶりに薙刀式を考え直すにあたって、新下駄配列やNICOLA、AstarteやDvorak、大西配列など、経験してきた他の配列との違いを改めてまとめてみよう。

1. 覚えやすさ

覚えやすさはとにかくピカイチ。自分が最初に薙刀式を選んで、配列表を見ずに打てるようになるまで、2日くらいしかかからなかったと思う。

覚えやすさに関しては新下駄配列は絶望的であるとしかいえない *3。3年も経っているにも関わらず、自分はまだ新下駄配列で打てないコンビネーションがいくつもある。その度に配列表を見直すので、パソコンやスマホの一番アクセスしやすいところに新下駄配列の配列表が置いてあるし、皮肉なことに登場頻度が少ないものほど覚えられない(一週間に一回出てくるかどうかといったコンビネーションもある)ので、残念ながらいつまで経っても覚えられない…。(出現頻度グラフが両極端なので、一部のコンビネーションは覚えなくても全く支障はないのだけれど…。)

NICOLA薙刀式については、この心配はほぼない *4 といえる。覚えやすいことの最大のメリットは「空で暗記した架空のキーボードで、脳内再生して練習できる」ことにあると自分は思っている。脳内再生したキーボードは、実際に指を動かさなくて良いので超高速に何度も練習することができて、これをするか否かで神経の定着率が全然違うと自分は思う。

ただ、脳内再生し始めると脳疲労が非常に強いので、普段はあまりしないことをおすすめしたい。その分の見返りは十分あると思うけれど、実際に目の前にキーボードがあるならそれを打つのがもっとも脳疲労は少なく、効率的に練習できる(脳内では誤ったコンビネーションを反復してしまうこともある)。

2. モダンさ

薙刀式は、3年ぶりに再考しても未だに最もモダンな配列であると自分は思う。当時選んだ理由がそれで、3キー同時押しを取り入れていたり、中指シフトやSandS (シフトとしてのスペースキー、兼、通常のスペースキー) など複数の機能を積極的に導入していたり、最近のキーボード/エミュレータが取り入れている近代的な機能はほぼ全て取り込まれている。*5

それはもちろん諸刃の剣であって、一部の古いキーボードでは打つことができなかったり、エミュレータ実装が難しいということでもある。実際かえうち2で当時うまく実装することができなかったことが、昔の自分の導入障壁になっていて、新下駄配列を検討しはじめた理由の一つだった。

それでも、最新機能が使われているということは、ハードウェアのポテンシャルを最大限に利用できているということなので、歓迎すべきだと思う。実装などはいつかは追いつくものだと考えて、正直追いついていないハードは無視していいとさえ思う *6

そう思うと、当時の自分はどのハードでも利用できる安定感と移植性を最重視した結果、いまはどこでも打てるキー配列を一つ確立しているし、それを自分でも実装できるくらいのスキルを3年のうちに身につけたので、それを前提にそうではない配列に挑戦する気持ちの余裕ができた、ということかもしれない。

3. コミュニティーの厚さ

これは技術選定をする上で結構大事なことなのだけれど、例えばPythonにはpipという非常に充実したパッケージマネージャーがついていたり、複数の企業の資金的支援があるのと同じことで、どれくらいのコミュニティが成熟しているかはとても大切な指標であると思う。

その点、薙刀式はNICOLAほどかはわからないけれど厚いコミュニティ層があるように感じるし、新配列や自作キーボード自体のユーザ層の厚さも手伝って、3年前とは比べ物にならないほど実装やバリエーションが充実してきた。

これは、配列自体の覚えやすさと相まって、誰でも使える基盤が整いつつあるといえると思う。あとはNICOLAみたいに、例えばポメラのような商用端末でサポートされたり、iOSアプリでも使えたりすれば良いのだろうなと思うけれど、そうしたことは追々、自然とついてくるものだと思う。

ちなみに新下駄配列やAstarteは、コミュニティ層が厚いとは言い難いので、自分の力だけで解決しなければならない課題に直面することがあるのだけれど、幸いに実装はシンプルで済むので回避できていたりする。(薙刀式は実装が難しいので、コミュニティ力はとても大切だと思う。)

まとめ

ということで、3年経ったいま、改めて親指シフトというものを再考してみることにして、なかでも「薙刀式」に再度目を向けてみることにした。

ちなみに薙刀式が親指シフトなのかという議論はあると思う。薙刀式は、中指シフトも人差し指シフトも、SandS(スペース & シフト)も採用しているので、正直親指シフトの域を超えているんだけれど、個人的には親指シフトであることが過去に利用のネックになっていたので、今回はその部分を少しフィーチャーした上で取り上げてみた。

じゃあ実際、薙刀式を自分がまた使っていくかどうか、といわれると、たぶんNICOLAと同じで、さらに何週間、何ヶ月か利用して、新下駄配列やAstarteも今まで通り使っていく上で、自然と使いやすい方に集約されていくはず。

本音をいえばポメラで新下駄配列や薙刀式が使えれば本当に良いのだけれど、ポメラ上で使うにはカスタムしたUbuntuの上で動かさなくてはならず、そうなるともうそれはポメラではなくてただのUMPC (超小型PC) じゃないかと…。

余談: 小型ワープロの夢

自分が好きなのは小型ワープロとしてのポメラなので、ポメラが搭載しているOSのような、ワープロ型OS(汎用機能をできるだけ排除した文字打ち特化のOS)を自分で作るのは正直アリなんじゃないかと最近実は真剣に思っていたりする。

ワープロというのは雑念を消すのに個人的にすごく良くて、このブログの過去のタイトルが「書く瞑想」であったことも、ポメラや新下駄配列や薙刀式と無関係では決してない。これらの書くための道具たちは、自分にとっての瞑想の道具の一つであって、もはや呼吸や歩行と同じくらい、自分の人生と切り離すことができないものなんじゃないかとすら思ったりもする。

だからこそ、汎用OSではなくてワープロOSというものにもう一度目を向けてみたいなと思っているし、新配列を自由に使うことができるiOSなどのモバイル用アプリについても、例えばオープンソースでの実装を検討したりなどしてみたいなと思う。

*1:Qwertyなどでの最適化の例: https://scitan.net/entry/typing-optimization

*2:後述するが、薙刀式はSandSという方式で親指シフトを利用しているだけで、中指シフトも人差し指も使うハイブリッド型のキー配列なので、厳密には親指シフトに分類するのは極端かもしれない。

*3:褒め言葉。新下駄配列はほぼ無意識で(神経の記憶で)打ってるので覚えてなくても実はあんまり支障はなかったり。

*4:NICOLAは一見覚えにくいのでは?と思うかもしれないのだけど、NICOLAは設計上、濁音と半濁音に明確に違いがあって、そのルールに慣れると自然に思い出せるようになってくる。あと全ての配列で共通なのは、出現頻度が高い語はよく打つ場所にあるというルール。これは新下駄配列も一緒。

*5:薙刀式は、拗音拡張が秀逸だと思っていて、覚えやすいというのは組み合わせのデザインが非常にうまいこと考えられているからだとも思う。実装上は多くの機能を使っているにも関わらず、そんな感じは微塵もしないのが、デザインとして優れている。

*6:プログラミング言語系でいうところの、RustやPyTorch、Docker、NVIDIA Dockerについても登場時期はそうだったし、新しい機能を追うというのはいつもBleeding Edgeなことだと思う。